賃貸における原状回復とは借りた家や部屋を返却する際に元の状態に戻すことです。元の状態といってもそっくりそのままに復元することは不可能ですから、そこには一定の基準というものがあります。アパートやマンションを借りた経験のある人はよくご存じでしょう。ところが、同じ感覚で事務所を借りると、原状回復の際に思わぬ落とし穴にはまってしまう場合があります。
原状回復の基準は住居と事務所ではまるで違う!
住居目的と事務所目的の賃貸では原状回復の基準が大きく異なります。適用される法律が違うからです。住宅賃貸の契約は消費者契約法に基づいています。消費者契約法とは借主と家主では力関係において前者が圧倒的に弱者だという考えに基づいて定められた法律です。したがって、原状回復においても借主が過度な負担を強いられないように基準が設けられています。一方、事務所の賃貸については消費者契約法が適応されていません。
(参照:http://www.recovery-no1.jp/office/)
事務所の原状回復の基準は住居よりも範囲が広い
消費者契約法では、普通に使っていても避けられない経年劣化による損耗は原状回復しなくてよいと定められています。しかし、消費者契約法が適応されない事務所の賃貸の場合は、この基準が当てはまりません。事務所は住居と違って人の出入りが多く、普通に使っていても損耗が激しいからです。住居の原状回復基準をそのまま事務所にあてはめてしまうと家主は大きな負担を負うことになります。また、家主と事業主の力関係にも差はないとみなされています。そのため、賃貸事務所の原状回復義務は賃貸住宅のそれと比べてかなり広範囲に及ぶのが通常です。
賃貸契約書の原状回復基準と原状回復特約
賃貸事務所の場合、通常の損傷も原状回復特約の契約が認められているのが一般的です。その範囲は照明器具、クロス、床板、天井や壁の汚れにまで及ぶ場合があります。そして、内装の原状回復費用はすべて借主が負担するのが普通です。事務所は住居と異なり、その利用目的に応じて改装工事を行います。費用は高額に及び、しかも、具体的な金額はケースによってバラバラなので最初から家賃に組み込んでおくというわけにもいきません。そのため、退去時に借主に全額負担してもらおうというわけです。
基準を満たさない原状回復はトラブルのもと
原状回復のガイドラインと言えば、国土交通省から出ているものがありますが、それに基づいて工事を行い、家主に返却するのはトラブルのもとになります。国土交通省のガイドラインはあくまでも賃貸住宅向けであり、オフィスには適応されないケースが多いからです。他にも退去前に照明器具やエアコンなどの備品を新品に取り換えたにも関わらず、後でそれらを交換するように家主から指示されたなどというケースも少なくありません。このトラブルは、新品とはどのレベルのものでどの程度のクオリティの商品と交換すべきかという認識の違いが原因のひとつになっています。
借りる前に基準をしっかり押さえおくことが重要
いざ退去するというときになってから原状回復などによるトラブルに巻き込まれるのは避けたいものです。そのためにはオフィスを借りる前に原状回復の基準を理解しておかねばなりません。しかも、具体的な内容は契約によっても異なります。契約書は細かいところまでしっかり目を通し、少しでも疑問に感じる箇所があれば事前に確認をしておきましょう。トラブル回避のためには、原状回復の一般基準と具体的な契約内容を事前にどれだけ理解しているかにかかっているという事実を忘れないようにしましょう。